そこは戦場だった。死を告げる鉛色の十字架が雨の如く飛び交い、猛獣をも蹂躙する鋼鉄の死神が駆け巡る。
空を飛ぶ鉄の鳥は伝説上の鳥、カラドリアスと言って過言ではなく、落とされる卵が破裂すると同時。周りの人間もダンプティ・ハンプティのように割れて血と脳漿を笑い声と共に撒き散らす。
まるで愉快で楽しい即興劇のような光景。
「ねぇねぇメイドさん、チーズバーガーとか食べたくならない?」
その地獄を鼻歌交じりに歩く、仮装の集団が居た。
「すぐそこにステーキが沢山落ちているでしょう? ウェルダンの。私から見れば少々焼きすぎな気もしますが」
メイドと呼ばれた彼女は紛うことなくメイド服。時代錯誤のように、イギリスの宮廷からタイムスリップでもしてきたような姿。
そんな彼女に話しかけているのは肥満の男。ゆっくりと歩く姿は此処が戦場ではなく日本の表通りのような気楽さ。
「俺ぁレアが好きだな、レア。でも蒸し焼きも嫌いじゃねえんだ」
「んんぅ。ミルクセーキが飲みたい。十ドルのミルクセーキ」
面倒くさそうに、メイドが言うところの炭となったステーキを踏みにじりながら気だるそうに欠伸をする男が、同じように気だるそうな少女を背負いながら歩く。
迷い無く歩く七人の姿。戦場に居る男たちは楽しんでいる蹂躙も忘れ唖然とした顔でその集団へと視線を向ける。
「君らはもう少しまともな感性を知るべきだ」
「へぇ。んじゃそういうアンタのまともって何さ?」
「無論、私はオーケストラの奏でる音楽を聴きながらワインを飲みたい」
「アハハハ。一流の楽団がそこらで賛美歌を奏でてるじゃない、ワインだって幾らでも飲み放題!」
苛々としている禿頭の男と話しこむのは白衣を着た女。ポケットに手を入れて、しかし肥満の男とは違いアメリカのストリートを歩く程度の警戒を持ちながら鼻歌交じりで歩いている。
「博士はもう少し配慮を身に着けるべきだ! 死に行く彼らを想えば……妬ましい!」
突然金切り声を上げたのは先頭を歩いている猫背の男。
おそらく、博士と呼んだ白衣の女が唄っているものがメタモルフォーゼンだと気づいたのだろう。
呆けた視線は、だんだんと恐怖に変わる。
こんな場所で、頭のおかしい会話をして、無傷で進んでいる。
だから兵士たちが緊張に耐え切れずその手に持つライフルの引き金と引いたのは当然。
当然、だからこそ間違えた。
「面倒くせぇなぁ。ジャジャジャジャーンってか?」
「んんぅ。音が合ってないよぅ」
小柄な男が欠伸とすると同時に、引き金を引いた男たちのライフルが全て爆ぜた。
両腕を失い苦悶の声を漏らす彼らに意識を向けることなく七人の集団はくだらない会話をしながら歩き続ける。
「私はね、いつだって美味しいものが食べたいと思っているのさ!」
「そうですね。じゃあガンジャでも使えばいいんじゃないですか?」
「アハハ! いいねぇ! あとヒロポンに阿片も入れれば最高級!」
「まだ雑草のほうが高級であろう」
彼ら、彼女らが歩いた後にはドッグタグの回収もままならない姿の生ゴミが大量に捨て置かれる。
それでも無理に攻撃をしようとするのにいらついたのか、それとも彼らを哀れに思ったのか、メイドは何時の間にかその右手に不釣合いな程に巨大な拳銃を握っていた。
五十口径の化け物。砂漠の鷹を意味する名をつけられた猛禽銃。メイド服の少女では到底扱えないように見えるそれを見て、兵士たちは場違いながらも笑う。
――なんだ、ありゃ――
――ハハ。自分の股にでも入れるんじゃねぇのか?――
どこか現実感のない光景は、一度の銃声と共に現実を蹂躙した。
寸分の狂いもない精密射撃。百メートル以上は離れた場所からスコープの一つも使わない射撃。
放たれた哀れな被害者は頭をジャムにしながら後ろへ倒れる。
次いで七発の轟音は七人の死を告げ、残った男たちは恐怖に顔を引き攣らせて我先にと逃げ出していく。
「メイド君は優しいものだ! 君らも彼女の慈愛を見習いたまえ!」
「んぅ。じゃー、私は対戦車砲でドカーンと挽肉でも作る?」
「欠片も残らないのを私は挽肉とは認めない」
七人は落とされるミサイルも、戦車から放たれる砲弾も、一切合財を気にする事なく歩く。目的地はすぐそこだ。
「最初のお別れは誰だったかな?」
肥満の男が弾んだ声で笑い、彼の言葉に六人が憮然とした表情で肥満の男を指差す。
「ハッハッハ。そうだ、僕だったね。フフ、早く君らも主人が見つかるといいねぇ」
「てめぇの主人が豚でなけりゃいいがな」
「んぅ。家畜は早く食べられればいいんです」
「貴方が居なくなると各地での食べ歩きが困難を極めますね……」
「アハハハハハ! そこらに落ちてる鉛の詰まったミートパイでも食べて空腹を先に紛らわすといいんじゃないかい?」
「不愉快だ! 全く、不愉快だ!」
「私はまともな主人が見つかるといいんだがな」
彼らは、止まる。視線の先には褐色の少女。隣には母親だろう女が倒れており、下半身をむき出しにした兵士たちがニヤニヤとした笑みを浮かべながらいままさに少女へと手をかけようとする光景。
「うんうん。僕の主人らしい悲劇の光景だ」
言いながら和やかな笑みを浮かべる肥満の男の手には一本の刀と、一丁の拳銃。
「さて、僕の主よ。糞尿の詰まった世界に革命を起こそう」
刀が翻り、銃弾が放たれた。
こんなの書きたい。
うーん。気分が乗りまくったら書いてみますかね。
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